【3分で分かる世界名作文学】そして誰もいなくなった(アガサ・クリスティ)

書評

誰もがタイトルは知っているけれど、意外と原作は読んだことがない世界の名作文学を、3分で分かるように紹介します。

 

今日はついにやってしまいます。

アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」です。

昔、クリスティの傑作4選でも紹介したことがありますが、今回はもう少し濃く紹介します。

 

いつもこのシリーズはネタバレを含むのですが、今回は推理小説ということで、犯人と結末を含むネタバレあらすじはページ末尾に記載します。結末を知りたくない方はそこは読まないでください。

 

「そして誰もいなくなった」作品紹介(ネタバレなし)

 

その孤島に招き寄せられたのは、たがいに面識もない、職業や年齢もさまざまな十人の男女だった。だが、招待主の姿は島にはなく、やがて夕食の席上、彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が……そして無気味な童謡の歌詞通りに、彼らが一人ずつ殺されてゆく!

 

「そして誰もいなくなった」みどころ

 

クローズド・サークル、見立て殺人、叙述トリックの傑作

 

本作品は、兵隊島という外界から隔絶された島で次々と起こる殺人を描いています。

その結果、島に呼ばれた10人以外に誰かいるのではないか、10人の中に犯人がいるのではないかという疑心暗鬼を登場人物だけでなく、読者に対しても起こし、結果として10人全員が死体で見つかることで、不可解な現象として説明のつかない結末を装った見事な作品です。

 

また、登場人物は「十人の小さな兵隊さん」になぞらえて殺され、ダイニングルームに飾られた10人の兵隊の人形が殺人の度に破壊されるなど、不気味な演出効果が抜群です。

 

途中、犯人を含めた登場人物全員の心理状態も明らかにされますが、犯人の心中の描写は巧妙に誤解を招くように書かれており、これを読んだだけではこの人が犯人とは誰も思わないと思います。

 

そして、最後に犯人からの手紙で明かされる全ての真相。この衝撃的なエンディングは他には類を見ない終わり方なのではないでしょうか。

この後、オマージュのような作品がたくさん生まれてきていますが、それを考えても衝撃的な終わり方です。

 

よくよく考えるとこんなに上手く何人も殺せるのかとか、なんでもっと早く逃げなかったのかとか、他に逃げる手段なかったのかと思ったりもしますが、舞台設定が、刊行された1939年と同年代であろうと考えると、携帯やインターネットは当然なく、クローズド・サークルの最大の特徴である、外部への連絡は事前に全て絶ち、本格的な検死をされることもなく、指紋を取られる頃には全員死んでいることを考えると、人に見られることさえ気を付けていれば、大丈夫だったのかも知れません。

 

タイトルが秀逸

 

作中に出てくる詩「十人の小さな兵隊さん」は、発表当初「Ten Little Niggers (10人の小さな黒人)」というタイトルで、この作品のタイトルも詩のまま「Ten Little Niggers」でした。

 

それがアメリカでの出版に際し、Niggerという黒人への差別用語が問題視され、最終的に現在の「And Then There Were None(そして誰もいなくなった)」に落ち着いたという経緯があります。

 

この「そして誰もいなくなった」というタイトルの力強さは素晴らしく、それだけで全員死ぬんだなと壮大なネタバレをしているものの、「じゃぁ、いったい誰がどうやって?」という疑問をかきたてずにはいられない、忘れがたいタイトルになっていると思います。

 

ヒントの出し方がフェア

 

最後の手紙の中にも書かれていますが、この作品、実は、真犯人を示す伏線がかなり初期の段階から張られています。

 

一つは告発された「罪状の真偽」、もう一つは「燻製ニシン」です。

あまり書いてしまうと犯人が分かってしまうので、これ以上は書きません。

さらにもう一点ヒントがあるのですが、これは書いてしまうと犯人が分かってしまうので、書かないようにしておきます。

 

いずれにせよ、これらのヒントに気づき、真犯人に気づく人がいたらすごいと思います。

ただし、「燻製ニシン」の話は、日本人にはあまりなじみのない話なので、これを当てるのはちょっと難しいかも知れません。

 

日本語翻訳版おススメ

 

クリスティの作品は、早川書房が独占翻訳権を持っているので、選択肢は早川しかありません。

 

本作は2010年に新訳がでており、翻訳者によるクオリティの差が激しいクリスティの中では、かなり違和感なく読める出来の良いものとなっています。

 

 

「そして誰もいなくなった」まとめ

 

というわけで、「そして誰もいなくなった」いかがでしたでしょうか?

 

ミステリーの最高傑作のひとつなので、読んでいない人は、下記のネタバレを読まず、犯人と結末を知らない状態で、是非とも読んで頂きたい作品です。

 

80年経っても全く古さを感じさせない素晴らしい作品です。

 

犯人・結末ネタバレあり!「そして誰もいなくなった」あらすじ

 

あらすじ

 

兵隊島と呼ばれるイギリス デヴォン州の孤島に、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれた。2人の召使が出迎えたが、招待状の差出人でこの島の主でもあるオーエン夫妻は、姿を現さないままだった。やがてその招待状の内容と差出人が、宛先によって一人一人異なり、島の主オーエン夫妻の名前がUnknown(名無し)を意味することが分かる。

ぎこちない晩餐の最中、彼らの過去の殺人を告発する謎の声が響き渡った。告発された殺人は全て事故とも事件ともつかず、そこにいる10人は裁かれずに終わったものばかりだった。その声はレコードからのものとすぐに知れ、各々告発された内容を自己弁護する10人。だが、その直後に生意気な青年が毒薬により死亡する。

さらに翌朝には召使の女性が死体で発見される。残された8人は、それが童謡「10人のインディアン」を連想させる死に方であること、また10個あったインディアン人形が8個に減っていることに気づく。その上、迎えの船が来なくなったため、残された8人は島から出ることができなくなり、完全な孤立状態となってしまう。

さらに数人が島で10人以外の人間を捜すが、島には他に誰もいないことを確認する。そうこうしている最中に、老将軍が撲殺され、人形もまた1つ減っているのを発見する。残された7人は、これは自分たちを殺すための招待であり、犯人は7人の中の誰かなのだ、と確信する。

誰が犯人かわからない疑心暗鬼の中で、召使・老婦人・元判事・医師が死体となり、人形も減っていく。そして、残された3人のうち1人が死に、最後の2人は互いに恐怖に陥って片方が片方を撃ち殺し、最後の1人も犯人がわからないまま精神的に追いつめられて自殺、そして誰もいなくなった

 

後日、救助隊が島で10人の死体を発見する。事件を担当するロンドン警視庁は、被害者たちが残した日記やメモ、死体の状況から、事件の経緯を掴む。残された状況から、10人を殺した11人目がいたはずだと推理するが、それが何者で救助隊が来る前にどうやって島に潜み島から抜け出したのか、誰も説明することができない。

 

しかし、後日、漁船船長がボトルに入った手紙を見つけることで、全ての謎が解明する。

 

ボトルの中の手紙は真犯人による告白文であった。真犯人は6番目の被害者と思われた招待客の1人、ローレンス・ウォーグレイヴ判事であり、事件で不明だった犯行方法・犯行動機などすべての謎に対する真相を記していた。

ウォーグレイヴ判事は幼少より生物を殺すことに快楽を感じる性質を持っていたが、同時に正義感に溢れ、罪なき人間を傷付けることへの抵抗感も強かったため、判事として罪人に死刑を言い渡すという迂遠な手段で殺人願望を満たしていた。しかし、病を患ったことを機に、自らの手で人を殺したいという欲望を抑えきれなくなったウォーグレイヴ判事は、欲望を満たしかつ正義を行えることとして、法律では裁かれなかった殺人を犯した9人の人間を集めて、1人ずつ殺していく計画を実行したのである。ウォーグレイヴ判事は6番目に殺されることになるが、それは医者を仲間に抱き込んで行った巧妙な偽装死であり、すべてが終わった後に告白文を書き、海に流して本当に自殺した。真犯人がこれからどうやって死ぬか、そして死後の見通しを語り、告白文は終わる。

 

登場人物

 

オーエン夫妻

兵隊島の持ち主で、8人の男女を招待し、2人の召使をやとった人。初日の夕食後に録音された音声で、10人の罪を告発する。
夫婦とも略すとU. N. Owenとなり、Unknown(名無し)とかけられている。

 

アンソニー・マーストン

最初の被害者。「のどをつまらせた」詩になぞらえて、毒を盛られて窒息死する。
遊び好きの青年で罪の意識が希薄。
告発された罪は、危険運転で二人の子供をひき殺したこと。あくまで事故を主張し、運転免許を取り消されたことに不満をもらしていた。

 

エセル・ロジャース

2人目の被害者。「寝ぼう」になぞらえて、致死量の睡眠薬を盛られる。
島で雇われた召使で料理人。トマスの妻。
告発された罪は、以前使えていた金持ちの高齢の夫人の遺産を手に入れるために、発作を起こした彼女に薬を与えず、消極的に殺害した。

 

ジョン・マッカーサー

3人目の被害者。「デヴォンを旅したら そこに住む」になぞらえて、散歩中に撲殺された。
退役将軍。
告発された罪は、妻の愛人だった部下を故意に死地に追いやった。

 

トマス・ロジャーズ

4人目の被害者。「まき割りしたら 自分を真っ二つに割って」になぞらえて、頭を斧で割られる。
島で雇われた召使。エセルの夫。
告発された罪はエセルと同じだが、真犯人の見立てによると、トマスが主犯格とのこと。

 

エミリー・ブレント

5人目の被害者。「ハチに刺されて」になぞらえて、毒物を注射される。
キリスト教の信仰篤い、厳格な老婦人。
告発された罪は、妊娠したメイドを家から追い出し、自殺に追いやったこと。

 

ローレンス・ウォーグレイヴ

6人目の被害者。ただし、殺人は偽装で真犯人。「大法官府に入って」になぞらえて、判事の正装に見立てた格好で銃殺される。
著名な判事だが、死刑判決が多いことで恐れられている。
告発された罪は、陪審員を誘導して無罪の被告に死刑判決を出したこと。ただし、死刑執行後に決定的証拠が見つかり、被告の有罪が明らかになっている。

 

エドワード・アームストロング

7人目の被害者。「くん製ニシンにのまれて」になぞらえて、海に突き落とされて溺死する。
ハーレー通りに医院を構える名医。
告発された罪は、酔ったまま手術をして患者を死なせたこと。

 

ウィリアム・ブロア

8人目の被害者。「大きなクマにだきしめられて」になぞらえて、熊の形をした大理石の置物の下敷きになる。
元警部の探偵。
告発された罪は、賄賂をもらって法廷で嘘の証言を行い、無実の男に罪を着せた。男は終身刑になり、刑務所で死亡した。

 

フィリップ・ロンバード

9人目の死亡者。ヴェラと二人きりになったことで、互いに相手が真犯人であるとの恐怖に陥り、隙をついたヴェラに銃を奪われて射殺された。
元陸軍大尉。
告発された罪は、東アフリカで部下の先住民を見捨てて21人を死なせた。

 

ヴェラ・クレイソーン

10人目の死亡者。ロンバードを射殺し、半ば錯乱状態のときに自室に用意されていた首吊り用ロープを見て、自ら首を吊った。
体育教師。
告発された罪は、家庭教師をしていた子供に、泳げるはずのない距離を許可して溺死させた。子供の叔父にあたる青年と恋愛関係にあり、青年に財産を相続させたくて犯行に及んだが、青年に感づかれて破局した。

 

「十人の小さな兵隊さん」

 

作中で重要な見立て殺人に使われる「十人の小さな兵隊さん」の詩。この詩に則って、登場人物が一人ひとり殺されていく。

 

小さな兵隊さんが10人、ご飯を食べにいったら 1人がのどをつまらせて、残りは9人

小さな兵隊さんが9人、夜更かししたら 1人が寝ぼうして、残りは8人

小さな兵隊さんが8人、デヴォンを旅したら 1人そこに住むって言って、残りは7人

小さな兵隊さんが7人、まき割りしたら 1人が自分を真っ二つに割って、残りは6人

小さな兵隊さんが6人、ハチの巣をいたずらしたら 1人がハチに刺されて、残りは5人

小さな兵隊さんが5人、法律を志したら 1人が大法官府に入って、残りは4人

小さな兵隊さんが4人、海に出かけたら 1人がくん製ニシンにのまれて、残りは3人

小さな兵隊さんが3人、動物園を歩いたら 1人が大きなクマにだきしめられて、残りは2人

小さな兵隊さんが2人、ひなたに座ったら 1人が焼け焦げになって、残りは1人

小さな兵隊さんが1人、あとに残されたら 自分で首をくくって、そして、誰もいなくなった

(クリスティ文庫版より)

 

 

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