『アルカサル -王城-』は、昨日まで取り上げてきた『魔天道ソナタ』『アリーズ』『ぴーひょろ一家』と同じ秋田書店のプリンセスコミックスですが、メインの掲載紙がビバ・プリンセスで、少し系統が違います。
この漫画については、私が途中で読まなくなったわけではなく、掲載紙のビバ・プリンセスが休刊したため、長らく連載休止状態だったという特殊事情もあります。
早速、衝撃のラストを見ていきましょう。
以下、ネタバレ、結末を含みますのでご注意ください。
『アルカサル -王城-』あらすじ
14世紀、スペインに生まれたドン・ペドロ一世。彼の行く手には波瀾の一生が待ちうける!!
(Amazon作品紹介より)
相変わらず雑なAmazonの作品紹介を引用しました。
これだとなんのこっちゃ分からないと思うのですが、本作は、現在のスペインに14世紀に実在したカスティリア王ペドロ一世の生涯を描いた作品です。
月刊誌連載時は、1334年のドン・ペドロの誕生から、1364年の絶頂期までが描かれていました。内容はおおむね史実に忠実で、連載終了時は宿敵エンリケとの闘いに勝ち、現在に残る世界遺産「セルビアのアルカサル」の建設を完了させた、まさに絶頂期のタイミングで終わっています。
話は史実通りである一方、漫画としての面白さを追求するため、主人公ドン・ペドロは、強く冷徹な意思を持ちながらもマリアを一途に愛する男に、宿敵エンリケは庶子ゆえに嫡子ペドロに対する歪んだ想いをため込むなど、青池保子によってドラマチックに色付けされたキャラクターたちが非常に魅力的です。
また、アルドンサとマリアの愛妾同士の争い、ペドロの最初の王妃ブランシュ姫のマルティンに対する恋心など、フィクションのエッセンスも非常に上手く、単なる歴史漫画以上にグイグイ引き込まれて読めます。
衝撃の最終回
前述の通り、この漫画は私が読むのを止めたわけではなく、掲載紙の「ビバ・プリンセス」が休刊になったため中断となり、結果として13年の長期休載となりました。
しかしながら、連載がドン・ペドロの絶頂期まで、と非常に良いタイミングで終わっており、この漫画が史実を描いたものである以上、以降は下り坂で宿敵エンリケに敗れるしかないということが分かっている身としては、このまま未完のままでも良いかなと思ったりしてしまったものです。
一方、青池保子という達人の筆が、そんな下降状態のドラマをどう描くのかには興味がありました。
結局、13年の沈黙を破って、2007年に「プリンセスGOLD」で全200ページの大長編で一気に完結しました。
この200ページは、それまでの12巻強とは話の進み方も描かれ方もだいぶ違い、どうしても説明が多くなっていますが、とにかくこの大長編をペドロ一世の死後の名誉回復まで描き切ったところに価値があります。
このあたりの経緯はコミックス13巻の97~98ページに描かれていますので参照ください。
青池保子の並々ならぬプロ意識が感じられるメッセージです。
ストーリーは絶頂を極めた後のドン・ペドロの転落一方の話で、最愛の妻マリアと跡継ぎの王子アルフォンソの死に始まり、謀略によりドン・ペドロが暗殺され、その後、娘コンスタンシアによって名誉回復が図られ、コンスタンシアの娘カタリナがエンリケの孫と結婚し、スペイン王家の祖となったことが示されて終わります。
と文章で説明すると味気ない気もしますが、200ページの中で織りなされるドラマが面白いので、まだの方は是非読んでみてください。
なお、ドン・ペドロが死んでいるシーンを読んで悲しくなってしまった方用に、外伝では元気なドン・ペドロをまた見ることができます。
こちらは、『修道士ファルコ』に出てくるファルコとドン・ペドロの話も入っているので、ファルコファンにもおススメです。
先述のコンスタンシアを主人公にした英国での話も収録されており、こちらも面白いです。1巻とついてますが、2巻が出るのかどうかが目下の関心の対象です。
『アルカサル -王城-』その他のみどころ
青池保子のすごさを痛感する作品
青池保子については『エロイカより愛をこめて』やそれ以外の作品を、これまでも紹介してきましたが、とにかく、絵も話も構成がしっかりしており、読み応えがあり、何を読んでもハズレがありません。
人物の顔は若干クセがありますが、見慣れると気にならなくなりますし、何よりおじさんキャラの描き分けが上手です。
青池保子の画面は、背景の精緻さが特徴的ですが、歴史物だけあって、この作品はその特徴が特に生き、特に際立っています。
もちろん、背景はほとんどがアシスタントが描いているのだと思いますが、だとしても、ここまで精緻に背景の描かれた漫画を私は読んだことがありません。
風景のコマはガイドブックのような美しさですし、騎馬兵入り乱れる戦闘シーンは映画のような迫力です。
衣装も当時の服装を良く研究した異国情緒溢れる衣装が描かれ、こちらもまた映画のワンシーンのようです。
この作品を読んでしまうと、他の歴史物が物足りなくなってしまうくらいのインパクトがあります。
『エロイカより愛をこめて』がヒットしたとき、日本からドイツのエーベルバッハ市を訪れる人が増えたという話がありますが、この漫画を読んでスペインに行きたくなった人も多いのではないでしょうか。
実際、私は半分くらいこれが原因でグラナダとコルドバに行きました。
まだまだ現役活躍中の青池保子
作者の青池保子は1948年生まれなので、現在なんと70歳になりますが、未だペースを落とすことなく、現在は「ケルン市警オド」を連載中です。
こちらは、作者らしい重厚な中世ミステリーで面白いです。
絵は確かにだいぶ変化しましたが、相変わらず、厚みのある絵でシリアスだけどドタバタをやっちゃうバランス感覚が絶妙です。
次はどんな話が出てくるか楽しみです!
『アルカサル -王城-』最終回まとめ
青池保子の『アルカサル -王城-』いかがでしたでしょうか。
他には例を見ない重厚な歴史漫画になっているので、普段少女漫画を読まない少年漫画・青年漫画専門の人にも、漫画を読む読まないにかかわらず歴史物好きにもおススメです。
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