【3分で分かる名作漫画】エロイカより愛をこめて(青池保子)

マンガ

今日紹介するのは、萩尾望都、竹宮恵子と同じく、24年組に数えられる青池保子の「エロイカより愛をこめて」です。

 

これまで紹介した中で唯一、現在進行形の完結してない漫画になります。とは言え、刊行済み39巻の中ではエピソードが複数に分かれており、今日までに刊行されている全てのエピソードは完結しているため、問題はありません。

 

この作品に関しては、結末というようなものがないため、ネタバレがあってもあまり問題ないような気がしますが、一応、以下には設定のネタバレ、各エピソードの結末を含みますのでご注意ください。

 

なお、上述の通り、話が複数のエピソードに分かれており、エピソード数のナンバリングだけで22編を数えます。番外編を入れると40編を越えます。

これを全てあらすじで説明するのは無理なので、今回は人物紹介を中心にエピソードを紹介するとともに、いつもとは違う変則的な紹介をしていきます。

 

「エロイカより愛をこめて」の成り立ち

 

中身の説明をする前にこの作品の成立当初のエピソードを紹介します。

 

読んでいただくと分かるのですが、この作品、最初の2話と3話以降で話の趣がガラッと変わります。

 

作者青池保子は、この連載開始当初、ヒット作「イブの息子たち」のスタイルを踏襲して、3人の主人公に異なるタイプの超能力を持たせ、男色家で美術品窃盗犯「エロイカ」(以下、伯爵)との攻防をドタバタギャグで描く予定だったようですが、エピソードNo.2で登場したNATO軍将校エーベルバッハ少佐の硬派ぶりが受け、少佐と伯爵をダブル主人公としたギャグを含むスパイ+怪盗物に落ち着きました。

 

以降、少佐のスパイ活動に伯爵の美術品窃盗が絡み、各国情報機関の情報争奪戦に伯爵が巻き込まれてひっかきまわすというパターンになっています。

 

なお、当初主人公に設定されていた3人は、エピソードNo.3で一人が数コマ出て以降、出てきません。

 

「エロイカより愛をこめて」登場人物紹介(ネタバレ含む)

 

ドリアン・レッド・グローリア伯爵

長い巻き毛金髪を持つ美形イギリス人男色家。表向きの顔は美術品収集家として知られる貴族だが、実際は国際指名手配を受ける世界的な美術品泥棒。少佐初登場時は犬猿の仲であったが、次第にその硬派ぶりに惹かれ、追い回すようになる。初期には少なくとも20人の部下を抱えていたが、中盤以降はボーナムとジェイムズくん以外は登場しない。
技巧を凝らした格調高い美術品を好む傾向にあるが、ミーハー気質でもあるため、王室所有などの由来にも弱い。盗む対象は、西洋絵画に限らず、仏像やイコンなど、守備範囲は広い。ただし、印象派および現代芸術への関心は薄い。盗みの腕は一流
なお、エピソードNo.1の登場時は、物憂げな表情の似合う美青年で、プライドの高い性格、No.2でも少佐を手玉に取るスカしたキャラだったが、物語が進むにつれて、(思い込みに基づく)少佐の女性関係に嫉妬を露わにするなど、ギャグキャラへと変貌した。

 

クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐

NATO軍情報部・ボン支部の陸軍少佐。直毛の黒髪長身強面ドイツ人有能な情報将校で、各国エージェントからは「鉄のクラウス」と恐れられている。任務至上主義で、無能な部下は容赦なくアラスカに左遷し、自らは「任務のため」という一言で、戦闘機の操縦から、チロリアンダンス、ケーキ作りまでなんでもこなす。女性に対しては冷淡とも言える態度をとるが、俗事の情報には精通している。
ハプスブルク家の末裔にあたる貴族の出身で、普段はボン近郊にある祖先伝来の城に住む。美術音痴であり、先祖伝来の由緒ある祖先の絵を「かぼちゃ」、「モナリザ」を「太ったおばさんの絵」と呼ぶ一方、レオパルト戦車の鋼鉄の質感を好む方面に美的感覚は向けられている。
伯爵のことは、座った後の椅子を消毒するなど毛嫌いしており、何度も警察に引き渡そうとしているが、泥棒としての腕は一流と認めており、任務次第では共闘する。

 

伯爵の部下

初期は少なくとも20人程度の部下がいたことが確認できている(エピソードNo.7「ハレルヤ・エクスプレス」で20名分の列車の席を要求している)が、中盤以降はここで紹介するジェイムズくんとボーナム以外、登場しなくなる。

 

ジェイムズくん

伯爵の部下で会計係。初期は伯爵の取り巻き美青年の一人として登場し、それなりの有能さを示す会計係だったが、次第にケチと貧乏に快感を覚える変態的な性格が強調されるようになる。腐ったものを食べても全く体調を崩さない、密航時にネズミと共存するといった、人間離れした能力を見せる。

 

ボーナム

伯爵の部下。温厚な常識人であり、伯爵の無茶とジェイムズくんの間で板挟みになることが多い。同じ悩みを持つ少佐の部下Aとはメル友で常に情報交換している。機械いじりと車の運転が得意で、有能さは少佐も認めるところであり、たびたびNATOに勧誘されている。

 

NATO情報部

エーベルバッハ少佐の部下としては、アルファベットのAからZまで26人いることが分かっているが、固有名詞が公開されているものはいない。

 

部下A(アー)

少佐の部下の筆頭格で、少佐からは一定の信頼を得ており、少佐不在時には残りの部下の指揮を取る立場にある。血液型A型の典型例のような人物として描かれており、実直で温厚。同じような立場の伯爵の部下ボーナムとはメル友である。美人の妻を持ち、少佐に寝取られるのではないかということを、伯爵含めてたびたびネタにされている。

 

部下B(ベー)

部下Aとよくコンビを組む少佐の部下の一人。真面目なAに対し、楽天家ですぐサボり、いい加減と、B型の典型として描かれている。

 

部下G(ゲー)

容貌とナンバリングが固定していなかった初期の少佐の部下の中で、最初にナンバリングと容貌が固定された人物。ゲイで線の細い美青年であり、女装して任務にあたることも多い。少佐と伯爵に色目を使い、部長に言い寄られている。物語が進むにつれ「少佐のための化粧」も進み、厚化粧キャラとして少佐に煙たがられている。

 

部下Z(ツェット)

26人の部下の中では一番の新人。金髪、長身の美青年であり、伯爵や部長から男色趣味な好意を寄せられている。新人ながら有能で、少佐からも期待されている。No.12「笑う枢機卿」編終了後に部下全員がまとめてアラスカに送られたときは、唯一少佐の元に残された。

 

情報部長

少佐の上司だが、ことあるごとに少佐と嫌味の応酬をしている。妻帯者だが男色家でもあり、伯爵に対して好意を寄せるとともに、部下GとZを気に入っている。SISのミスターLとは数十年来の親友であり、極度の甘党で肥満体が共通点。

 

各国情報部

仔熊のミーシャ

旧KGBの敏腕エージェント。ヘルシンキオリンピックのボクシングの金メダリストであり、がっしりした体格にスキンヘッド、サングラスの強面ロシア人。どこにいってもサングラスを外さないため、素顔は不明。冷戦時代は少佐の宿敵であり、幾度となく命のやり取りを行った。冷戦後は上の命令次第では共同戦線を張ることがあるが、基本路線は険悪なやりとりの延長である。

 

白クマ

旧KGBのエージェントで、ミーシャとは長年にわたる親友。ロマンスグレーの髪と口ひげを蓄えた紳士然とした渋い中年。冷戦時代の肩書はソビエト大使館の二等書記官。少佐とミーシャの間に入ることができる数少ない人物。

 

チャールズ・ロレンス

イギリス情報局秘密情報部(SIS)の少尉。ジェームズ・ボンドを気取り、楽天的・享楽的な性格で、初登場の「グラス・ターゲット」編以降は、パーティか女遊びを目的に番外編にしか出てこない。少佐・伯爵を含む、彼を知る登場人物のほぼ全員に疎まれているか呆れられている。

 

ミスター・L

ロレンスの上司でNATO情報部長の長年の盟友。部長を越える巨漢。ロレンスほどではないが、007の世界観を好むロマンチスト。本編中では名前しか出てこない孫娘のメリンダちゃん(7歳)を溺愛し、有能な少佐をくっつけようと画策する。

 

その他

エーベルバッハ家執事

本名コンラート・ヒンケル。少佐の父の代から二代にわたって仕える執事。少佐のためには命を捨てる覚悟をもつ忠誠心溢れる熱血漢だが、少佐とその父を前にした場合、天然で父の方の肩を持つことが多い。

 

少佐の父

少佐と執事の間の会話や電話でのみ登場する。名前は不明。「特別休暇命令」の回想シーンでは一コマだけ若かりし頃の顔が見れる。少佐が頭の上がらない数少ない人物。現在はチューリッヒに隠居して、まとまらない回顧録を書いている(少佐談)

 

「エロイカより愛をこめて」みどころ

 

少女漫画とは思えない硬派なスパイ物とギャグ漫画の絶妙なバランス

 

先述の通り、この漫画は当初、超能力VS怪盗のドタバタギャグの予定だったのが、ギャグを含んだスパイ&怪盗物で落ち着きました。

この硬派と軟派のバランスが絶妙です。

 

スパイ物の筋だけを拾っても、それだけでも十分面白く、本格的な構成になっており、精緻に描き込まれた背景、ところどころで出てくる地図を交えた説明などで、任務の詳細やキーとなる人物が明かされる過程がワクワクします。

 

しかしながら、ただのスパイ物で終わらないところが青池保子のすごいところで、軸となるスパイの話を描きながら、そこに伯爵の怪盗物エピソードを加え、ギャグ的に話をひっかきまわすことで、展開が二転三転し、少佐や伯爵の行動が予測不能であることもあって、ハラハラさせる展開となります。

 

実のところ、「イブの息子たち」のドタバタギャグのノリが私は少し苦手で、あそこまでやられていると、私は名作としては取り上げなかったと思うのですが、というか、一般的にも、あのノリでは40年近く、39巻も続かなかったのではないかと思いますが、あそこまでぶっ飛んでないけれども、スパイ物としてはかなり企画外な展開になっている、この絶妙のさじ加減がたまりません。

 

絵柄はクセがあるけど画力がめちゃくちゃ高い

 

青池保子は絵柄が結構変遷している漫画家で、「エロイカ」初期は、伯爵も少佐も10頭身あり、体の線が細く、眼の中に星が光ると典型的な少女漫画の絵柄だったのが、徐々に現在の絵柄に変遷し、頭身はせいぜい8頭身まで、顔は全体的に目が細く鼻が長く馬面で、当然眼の中の星もなくなり、体は筋肉の重さと質感を感じられるような肉厚な身体となりました。

 

特に顔の描き方が、他では見ない独特な描き方なので、最初は好き嫌いが分かれると思いますが、慣れれば違和感を感じなくなると思います。

この作品は、少女漫画であるにも関わらず、中年のおじさんしか出てこない場面がほとんどですが、そんな画面でも少女漫画誌に溶け込めるのは、作者のセンスの高さ故の賜物だと思います。

 

また、スパイ物ということで、少女漫画では例を見ないほどのアクションシーンを挟み、またそれらの場面を躍動感を持って描き切る作者の画力は非常に高く、この画力の高さも画面からストレスを感じさせない原因です。

 

加えて、戦闘機や戦車といった大物から手にする銃などの小物まで、そして、背景の建物や自然の風景、といった人物以外の作画力も高く、これが普通だと思ってしまうと、他の大半の漫画家の背景が白く思えるくらいの完成度の高さです。

というか、こういう小物(戦闘機や戦車は小物と呼ぶのか分かりませんが笑)や背景はアシスタントが描いているのだと思いますが、にしても、画面への溶け込み具合と完成度が素晴らしく、一度、原画作成風景を見てみたいです。

 

海外旅行の気分が味わえる・海外旅行に行きたくなる

 

この連載がヒットしたことをきっかけに、日本ではドイツ語を勉強する人が増えたとか、少佐と同じ名前を持つドイツのエーベルバッハ市では、日本人観光客が急増し、作者には観光業への貢献を称え、名誉賞が贈られたとか、色々なエピソードがあるそうですが、今読んでも観光に行きたくなる魅力に溢れています。

 

これは、まず、作中の背景が非常に精緻に描かれており、ガイドブックを見ている気分が味わえるから始まり、少佐や伯爵がその中で動いているのを見て、実際に観光に行きたくなる、につながります。

 

ちなみに私は、シリーズ最長編No.14「皇帝円舞曲」を雑誌で読んでいた時期がありますが、これを読んでインスブルックを自分の旅行ルートに入れました。

「金髪の禅僧が町を歩いてないかなぁ」「この王宮に如意輪観音が眠っているのか」「このロープウェイを上ったところで少佐はメッテルニヒを追いかけたのか」「この通りを少佐は馬で逃げたのか」などなど、色々妄想して楽しかった覚えがあります笑。それぞれどこのことを言っているのかは、コミックス16~19巻をご覧ください。

 

番外編「Zシリーズ」と「魔弾の射手」

 

本作は40年近く続く作品とあって、スピンオフ作品もいくつかあります。

その中でも有名なのが「Zシリーズ」と「魔弾の射手」でしょう。どちらも伯爵が出て来ず、よりシリアスな本格スパイ物にフォーカスした作品となっています。

 

「Zシリーズ」は少佐の部下Zを主人公にしています。少佐の部下の中でも最若手のZが、訓練所出立てのところから少佐の命令で初任務に入るところが1話です。

一生懸命にやっているのに少佐に怒鳴られるZが、とは言え、少佐には絶大な信頼を寄せ、なついているように見える様が可愛いです。

 

 

「魔弾の射手」は少佐を主人公に据えた話で、ギャグ要素どころか甘さを一切排除し、スパイ物の大家ル・カレに迫るようなリアルな諜報世界を描いた作品です。’魔弾の射手’とあだ名される逆スパイ狩りの殺し屋と少佐の鬼気迫る攻防は、この作品最大の見どころです。

 

読み終わって一息つくと、伯爵がいなければ少佐はこういう線もいけるんだろうなと思わせます。

ただ、全編、このノリだと疲れてしまうので、「エロイカ」はやっぱり、今のノリが良いです。

 

「魔弾の射手」は少佐専用本(?)に載ってます。Kindle欲しい。。。

 

「エロイカより愛をこめて」まとめ

 

青池保子の大作「エロイカより愛をこめて」いかがでしたでしょうか?

 

連載自体は2012年に39巻を刊行したのを最後に現在中断しています。

 

作者の青池保子は1948年生まれなので、現在なんと70歳になりますが、未だペースを落とすことなく、現在は「ケルン市警オド」を連載中です。

こちらも作者らしい重厚な中世ミステリーで面白いです。

 

「エロイカ」については、作品の内容的に、(各エピソードのキリがついていれば)何かを終わらせなければならない内容でもないため、話を思いついた範囲で続きを描いていって頂きたいなぁと思います。

 

次はどんな作品が来るのか楽しみです!

 

 

作者青池保子の公式サイトです

青池保子公式サイト LAND HAUS

 

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