【3分で分かる名作漫画】日出処の天子(山岸凉子)

マンガ

最近、新しい漫画を読むより、昔の漫画を読み返すことが増えました。

ストーリーを知っているので水戸黄門の予定調和的に安心して読めるというのもありますが、なにより、名作には何度も読ませる力があるのも確か。

 

今日はそんな漫画の中から、山岸凉子の「日出処の天子」を紹介します。

 

以下ネタバレを含みますので、結末を知りたくない方はご注意ください。

 

「日出処の天子」あらすじ(ネタバレ含む)

 

西暦583年、時代は飛鳥、蘇我氏と物部氏が権力を争う時代。

 

ある春の日、14歳の蘇我毛人(そがのえみし)は天女と見まごう美しい女童に偶然出会い、ほのかな恋心を抱く。それは厩戸皇子(うまやどのおうじ、のちの聖徳太子)であった。皇子は天才的な頭脳と教養、非凡な政治的手腕と洞察力を発揮、わずか10歳ながら、朝廷では誰もが一目おいていた。しかし、家族の中では距離を置かれていることに毛人は気づく。実は皇子は不思議な能力を持っており、実母の穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ)に恐れられ遠ざけられていた。毛人は厩戸にとって、母親以外では初めて、自分の能力を感知し、思い通りに操れない人物であったが、母と異なり自分を恐れない毛人にいつしか厩戸は心惹かれるようになっていく。毛人も厩戸が時折見せる孤独に心を痛める。

 

尊敬と畏怖を持ちながらも奇妙に心惹かれ、厩戸に接する毛人だが、自分に有利なように権力抗争を引き回す厩戸は、自らの力も利用して邪魔者を自ら消していく。毛人は厩戸にとって、自分の持つ能力を共有し、増幅できる唯一の存在で、何度か皇子の窮地を救うが、無意識下でしか能力を引き出すことができない。さらに、自ら手を下したことにより、能力を感知する穴穂部間人媛との溝は決定的に広がってしまう。

 

そんな中、毛人は石上神社の巫女であった布都姫(ふつひめ)と出会い恋に落ちる。厩戸は激しい嫉妬に悩まされ、策謀を巡らせ、大王に妃として送り込む。さらに、毛人は同母妹刀自古(とじこ)の計略により、妹と一夜を過ごし、あろうことか刀自古は妊娠、そのまま厩戸の妃となってしまう。

 

刀自古の妊娠すらも利用し、自分の立場の確立を進める厩戸だが、大王と一触即発の状態に陥る。この事態に、大君と邪魔な布都姫の両方を殺害しようとするが、布都姫殺害は直前で毛人に気づかれて失敗する。布都姫に関する全てのことに厩戸の策略があったことを悟った毛人。「元が一つであったはずの二人力を合わせれば全てを支配できる」という厩戸に対し、「二人が共に男として生まれたのは、この世で決して一つになってはいけないから」と答え、苦渋の末に厩戸から離れ、布都姫を選ぶ。

 

物語は、厩戸が孤独の中に残される一方、政治的実権を握り、遣隋使を発案するところで終わる。

 

「日出処の天子」みどころ

 

山岸凉子の細く繊細な絵柄

 

山岸凉子と言えば、萩尾望都、竹宮恵子らと共に、24年組(昭和24年前後の生まれで、70年代に少女漫画の革新を担った女性漫画家たちを指す)に数えられる少女漫画家の大御所

 

当時の漫画家の常として、最初はパッチリ目に星が光る丸顔の可愛い絵柄でしたが、その後、細い線を駆使した絵柄に変えて、現在の絵柄に定着しました。

どこで読んだのか忘れましたが、作者本人が何かのインタビューで、線一本分ずれただけで表情が変わってしまうと発言していたのを読んだ記憶があり、微妙で繊細な表現は、この細線から来ているとも言えます。

 

ホラー調の作品に定評があるだけに、少女漫画らしい表情より、凄みの効いた表情、鬼気迫る表情の方に本領が発揮され、この作品ではその傾向が最大に活かされています。

 

また、独特の四角いふきだしは、画面全体を硬く引き締める効果を挙げており、この点も典型的な少女漫画と一線を画すところです。

 

2017年に開催された原画展のアナウンス↓細線を駆使した繊細な絵が見れます。

「【画像】『アラベスク』『日出処の天子』などの原画約200点を展示 山岸涼子展が京都国際マンガミュージアムにて開催」の画像5/7 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
「『アラベスク』『日出処の天子』などの原画約200点を展示 山岸涼子展が京都国際マンガミュージアムにて開催」の関連画像5/7です。

 

連載当時は世間に衝撃を与えた設定の数々

 

本作は、歴史上の人物 聖徳太子の前半生をベースとしているため、大まかな展開そのものは誰もが歴史の授業で習ったことから予想が付きます。

 

一方、斬新なのはその設定でした。

主人公である厩戸に超能力があり、かつ育った環境が原因で同性愛者になるという設定は、当時、世間に大きな衝撃を与えたようです。

この漫画は1980~84年にかけて連載され、私はリアルタイムでは読んでいないのですが、今ほど作品が多様化していない連載時は様々な話題を呼んだと聞いています。

 

こういった作品があればこそ、その後の漫画表現における歴史物や同性愛物のすそ野が広がったわけで、まさに少女漫画の革新に恥じない作品の一つと言えましょう。

 

厩戸の破滅型性格が魅力的

 

この作品の一番の魅力はなんといっても厩戸皇子の破滅型な性格です。

 

2人を除く全ての人を思い通りに操ることができ、容姿端麗・頭脳明晰、身分も高いと、少女漫画の主人公として何一つ隙がない存在ですが、ただ一つ、自分が望む愛情だけは手にいれることができません。

 

最初は自分の母穴穂部間人媛。本来、母親から得られるはずの愛情は、母親が厩戸の力を恐れたため、遠ざけられる原因となっています。

しかも、物語最後で、厩戸の能力は母である穴穂部間人媛から継がれたものではないかと毛人に指摘され、自分の仕打ちは棚にあげた毛人から猛烈に糾弾される役回りです。

ただ、最後に厩戸が娶った狂女の眼がこの母親の眼に似ていると毛人が指摘している通り、無意識に母の愛情を求める厩戸の絶望の深さが分かります。

 

次は毛人。最初は毛人自身も美少年(ただし、毛人には美少女に見えていた)の厩戸に惹かれている描写がありますが、布都姫の登場により、あっさり陥落。厩戸の声が届かないうえに、「男同士で生まれたのは結ばれないためだ」とまで拒絶される始末。

 

厩戸はさらに、自分の子供たちの未来が見えており、全ての子供たちが若くして殺される未来を承知しています。歴史上、長男山背大兄王を筆頭に、聖徳太子の子供は全て毛人の息子蘇我入鹿に滅ぼされており、未来視の通りの未来が来るのですが、見えていても厩戸には何もできません。

 

こんな絶望的な状況下で、「全て無駄なことだが、わたしは生きていく」というのがなかなか力強いメッセージです。

 

続編「馬屋古女王」も山岸凉子の本領発揮

 

「馬屋古女王(うまやこのひめみこ)」は「日出処の天子」の続編ですが、「日出処の天子」に出ていた登場人物はほとんど出てこず、厩戸皇子が亡くなったところから物語が始まります。

 

刀自古と厩戸皇子(本当の父親は毛人)の子、山背大兄王(やましろのおおえのおうじ)は、両親の葬儀に出席させるため、実父の厩戸によって生まれてから15年間軟禁されていた末妹、馬屋古女王を解放する。馬屋古は厩戸の子供たちで唯一、父に酷似した美しい容姿の持ち主であった。しかし彼女が解放されてから、彼女を巡って上宮王家に不穏な兆しが見え始める。

 

物語は、滅亡の始まりにふさわしく、終始不穏な空気を漂わせ、最後は全てに諦観した山背大兄王の静かに滅亡を待つかのような描写で終わります。

一方で、蘇我入鹿は馬屋古女王の魔性を敏感に感じ取り、馬屋古女王を手放せない山背大兄王に危機感を抱き、後の史実、入鹿が山背大兄王を自殺に追い込む事件への流れを感じさせる展開です。

 

ホラーではないのですが、どことなくホラー調のにおいをさせ、山岸凉子の本領発揮というところです。

この静かな絶望感が、厩戸がずっと見ていた、自分の子供たちが殺される場面につながっていくのだろう、と思わせます。

 

なお、厩戸は苛烈な性格ではありますが、娘を15年間監禁するというのは、馬屋古女王の性格や背景を読んだ後でも結構違和感がありますが、どうしちゃったんでしょうか。厩戸の力を持ってしても、閉じ込めておくことでしか抑えられなかったということでしょうか。

実際、物語の最後の方に、厩戸に変わって馬屋古女王を食い止められる人はいないと巫女役の佐富王女(さとみのおうじょ)が取り乱す場面があり、そういうことのようです。

 

馬屋古女王は完全版の第7巻に収録されています。

 

「日出処の天子」まとめ

 

山岸凉子の「日出処の天子」いかがでしたでしょうか。

 

あまりに有名な作品のため、今更解説するまでもないですが、私にとっても印象深い作品ですので、第一作目として取り上げさせて頂きました。

 

この作品、唯一の不満は、Kindle版が出ていないこと。

なぜ、これだけの名作がまだ電子化されてないんでしょうか。永久保存版として、是非iPadの中に入れておきたいんですが。

出たら速攻で買うので、是非今すぐにでも電子化して欲しいです。

 

 

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コメント

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  5. ももん より:

    山岸涼子さんの場合は、とにかく描く
    人が造形的に美しいため、ストーリー
    が奇抜なものであっても許されてしま
    うのでしょう。ストーリーもさながら、あの美しい線を目にしたいがため
    に読みすすめるという行為になる。
    私の場合はあの線に惹かれて目が離せ
    なくなりました。

    • shiroyagi19 より:

      ももんさん、コメントありがとうございます。

      山岸凉子さんの絵、美しいですよね。私も大好きで、特に表情の描き方が他のどの漫画家さんとも違う独特の雰囲気があって好きです。

      昔、「髪の毛一本分、線がずれただけで表情が変わってしまう」と作者ご本人がコメントされていたのを聞いた(記事で読んだ、かも知れません)覚えがあり、そういう目で見ると、確かに厩戸皇子の表情も全然変わってしまうことに気づき、なんて緻密で繊細な作業なんだと感動した覚えがあります。

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