【3分で分かる名作漫画】風と木の詩(竹宮恵子)

マンガ

本当は、24年組の双璧という流れで、萩尾望都の「ポーの一族」の直後にやりたかったこの作品、巻数が多いので、紹介するのに準備と気合が必要でした。竹宮恵子の「風と木の詩」です。

 

竹宮恵子といえば、24年組の一人、有名作品は「地球へ…」「スパニッシュ・ハーレム」「イズァローン伝説」「天馬の血族」など、かなり古いものから比較的新しいものまで、息長く活躍されている漫画家さんでもあります。

個人的にはあまりメジャーでない「ファラオの墓」なんかも好きだったりします。

 

が、やはり最高傑作と言えば「風と木の詩」になるでしょうか。

 

以下ネタバレを含みますので、結末を知りたくない方はご注意ください。

また、BLものですので、苦手な方もご注意ください。

 

「風と木の詩」あらずじ(ネタバレ含む)

 

フランス アルルのラコンブラード学院にセルジュ・バトゥールという少年が転入してきた。彼は亡くなったバトゥール子爵の一人息子で、ジプシーの母親と駆け落ちしていたが、両親の死をきっかけに子爵を継ぎ、学院に来たのだった。

 

セルジュは入学早々、学院一の問題児ジルベールと同室になる。ジルベールは見た目は少女にしか見えない絶世の美少年だったが、学院中で何かと理由をつけて男と寝る男娼のような生活をしていた。

 

一人部屋を半ば規制特権のように受け取っていたジルベールはセルジュを疎み、自分に好意を寄せる者をけしかけて追い出そうとするも失敗し、今度はセルジュを誘惑しようとする。ジルベールに心惹かれるのを自覚しつつ、ジルベールの卑劣な罠にもめげず、セルジュは部屋を出て行かないと宣言する。

 

ジプシーの母の血を継いで浅黒い肌を持つセルジュは、貧しいながらも深く愛してくれた両親の元を離れた後は、心無い差別を受けることが多かったが、父アスランの学友だったワッツ、ルイ・レネ、父を教えたルーシュ教授、カールやパスカルといった学友などの理解者に恵まれるようになっていた。

 

休暇をパスカルの家で過ごし、少し早く帰ってくると、ジルベールは部屋の中で幽霊のように放心して座っていた。セルジュを見たジルベールは、一人では眠れないから自分を抱けと懇願する。プライドを投げ打って懇願するジルベールに、セルジュは何もしないが、一つのベッドで肌を触れ合って寝ることを了承する。

 

ジルベールが荒れていたのは、叔父オーギュストからクリスマスに逢えないという手紙を残酷な手段で受け取ったからだった。ジルベールは本当は叔父オーギュストとその義兄の妻の間に生まれた不義の子であり、両親から疎まれ、オーギュストからは倒錯した愛を受けて育ち、オーギュストに完全に支配されていた。

 

一度はジルベールから距離を置こうとするも、結局見捨てられないセルジュにジルベールもだんだんと心を開き、ついに二人の心はオーギュスト以上のつながりを得る。あくまでジルベールを倒錯した支配下においておくことに粘着するオーギュストは二人を引き離そうと様々に画策するが失敗し、ジルベールを退校させようとするが、セルジュとジルベールは学生たちの助けもあって学院を脱走する。

 

パリに着いた二人だが、金もなく、まともな生活手段もない。セルジュは必死に普通の生活を送ろうと仕事を探すが、一人孤独の中に取り残されたジルベールは、街の裏世界のボスに目をつけられ、薬漬けにされた上、男娼として働かされる。薬で朦朧とするジルベールは、走り去る馬車にオーギュストの幻覚を見、馬車の前に飛び込んで息絶えた。遺体はオーギュストの元に返され、セルジュはすっかり昔通りに整えられたバトゥール子爵家へ戻る。

 

「風と木の詩」みどころ

 

物語冒頭から抱かせる破滅の予感

 

ジルベールは物語冒頭から他の学生と全裸でベッドにいる登場シーンから始まり、その後も呼び出された校長の言うがままになるなど、どう見てもまともでない始まり方をします。

 

が、誰と肌を重ねても満足せず、ひたすらに何かを求めて彷徨っているように見えるジルベールの危うさは、放っておけない魅力があります。

 

後にジルベールの生い立ちが明かされ、ジルベールの破滅型の性格に誰もが納得がいくわけですが、同情しつつも、この子はまともには生きていけないだろうなという予感を抱かせます。

 

もう一人の主人公セルジュは、貧しい中でも両親の愛情を一身に受けて育ったわけですが、そんな彼をもってしても、この破滅型のジルベールを救うことはできないだろうと思ってしまいます。

 

また、諸悪の根源オーギュストにしても、義兄から性的虐待を受けており(というより、そのために養子にされた側面があるようにも見えますが)、同情すべき点がある、ということで、読者の感情は袋小路に陥ってしまいます。

 

そんな、冒頭から何度も希望を抱かせつつ、一貫して破滅に向かって突き進む物語に、ある種、滅びの美を感じ、読者は魅せられてしまうのでしょう。

 

透明感のある美しいBLの傑作

 

この作品はBLの走りとも最高傑作とも言われている通り、パブリック・スクールを舞台に少年同士の性愛を描いた作品です。

 

ただし、内容はあくまで少女漫画なので、ジルベールが嬲られるシーンはあるものの、全編通して綺麗に描かれています。

また、少年同士ということで、男女の愛情と違い、生々しさがなく、透明感のある仕上がりになっています。

 

物語としては、普遍的な恋愛物につながるテーマを、少年愛にフォーカスしたことで、生々しさを省き、透明感のある物語として成功した最初の例と言えるのではないでしょうか。

 

今見ても遜色ないヨーロッパの描写

 

この漫画が連載されていた1970年代は、今とは異なり、ヨーロッパの情報が簡単に入手できる時代ではありませんでした。

 

しかしながら、ジルベールが子供の頃に住んでいた屋敷やバトゥール子爵家の内装や庭は、とても想像の産物とは思えない細かさです。

 

著者あとがきや欄外の小話、インタビューなどで作者が語っていましたが、この作品を完成させるために、作者は大量の西欧映画、洋書などを研究したそうです。

特に、イタリアの名匠ヴィスコンティの映画を多く参考にしたと語っており、貴族出身のヴィスコンティの映画を研究することで、近現代ヨーロッパの貴族文化を緻密に描くことに成功した側面はあるかも知れません。

 

なお、24年組は、1972年に当時としては珍しい45日間のヨーロッパ旅行に出かけており、それがこの「風と木の詩」をはじめとする、24年組の各種ヨーロッパ作品(萩尾望都「ポーの一族」、山岸凉子「アラベスク」など)につながるようです。

 

続編「幸福の鳩」

 

私は長いこと、この続編の存在を知らなかったのですが、Kindle版を購入したら、第16巻の最後に収録されていました。タイトルは「番外編 幸福の鳩」です。

作品自体は1991年とだいぶ経ってから描かれたもので、連載時に刊行されたコミックには収録されておらず、絵柄は「天馬の血族」に近くなっています。

 

内容は、ジルベール亡き後(おそらく4~5年後)、ジルベールの面影に囚われながらもピアニストとして大成したセルジュのコンサートを聴きに来たロスマリネとジュールが再会し、ジルベールの死とそれにまつわる関係者のその後を回想する話です。

ジルベールとオーギュスト、セルジュについては、読者が思っていることをそのまま代弁するような形になっており、また、学生時代は微妙な力関係の上に成り立っていたロスマリネとジュールの間が氷解するような構成になっており、ファンにはうれしい続編となっています。

 

個人的には変わったと言われているオーギュストがどう変わったのかが気になります。ジルベールの死後、何事もやる気なくした、が好みなんですが、まぁ、そうはなってないんだろうなぁ。。。

 

「風と木の詩」まとめ

 

最初に刊行されたコミック(番外編除く)で全17巻という大ボリュームのため、あらすじなどもだいぶ端折った説明となりましたが、「風と木の詩」いかがでしたでしょうか?

 

個人的には、ジルベールみたいな子はまず惹かれると思いますが、手に負えないので、近寄らないと思います。と考えると、セルジュはやっぱりすごいですね。

例え、その後ジルベールから逃れられないとしても、むしろ、一生囚われていられるものに出会えたセルジュは幸せでしょう。

 

なにしろ書き切れないので、ここでの説明は、あらすじも設定もだいぶ端折っています。

この読み応えのある名作、秋の夜長にいかがでしょうか?

 

 

コメント

  1. […] BLものは竹宮恵子の「風と木の詩」以降、定期的に商業誌でも取り上げられる題材ではありますが、この漫画の連載当時は、やおい同人誌の勃興期だったこともあり、BLは同人でやれ的風 […]

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