【3分で分かる世界名作文学】肉体の悪魔(ラディゲ)

書評

誰もがタイトルは知っているけれど、意外と原作は読んだことがない世界の名作文学を、3分で分かるように紹介します。

 

今日はラディゲの『肉体の悪魔』です。

 

以下ネタバレを含みますので、結末を知りたくない方はご注意ください。

 

『肉体の悪魔』あらすじ(ネタバレ含む)

 

第一次大戦下のフランス。パリの学校に通う15歳の「僕」は、ある日、19歳の美しいマルトと出会う。全てを忘れてマルトにのめりこむ「僕」だが、マルトには婚約者がいて、まもなく二人は結婚してしまう。

 

出征中の夫がいない間、逢瀬を重ねる二人。マルトはもはやかつて抱いていた夫への愛情はなく、ふたりはやがて毎晩のように愛し合う仲になった。

 

そんなある日、マルトは妊娠したことを「僕」に打ち明ける。若くして父親になる覚悟のなかった「僕」は混乱し、妊娠のために不安定になったマルトの周りを憚らない行動も相まって、二人の仲は夫以外の多くの人に知られるようになる。

 

マルトは男の子を産み、「僕」と同じ名前をつける。それからしばらくして、マルトは死ぬ。その後、夫と会った「僕」は、マルトが子供の名前を呼びながら死んでいったことを知る。

 

『肉体の悪魔』みどころ

 

早熟で早逝した天才

 

ラディゲは20歳で早世したフランスの作家です。

 

この作品は自分の体験をベースにしているとも言われ、14歳のときにマルトのモデルとなる年上の女性と出会い、学校を放校処分になっています

 

短い活動期間の中で有名なのは、ジャン・コクトーとの関わりで、コクトーはラディゲの才能を見抜き、自分の友人の芸術家・文学者仲間に紹介して回ったと言われています。本作が無名の新人作家のデビュー作としては大成功をおさめたのも、内容の反道徳的な面が評判を呼んだことに加え、コクトーの支援により出版社から大掛かりなプロモーションがあったためと言います。

 

しかしながら、『肉体の悪魔』の出版後、ラディゲは腸チフスにかかり、わずか20年の生涯を閉じました。

 

描かれる凶暴な愛とどこか冷めきった目線

 

上述の通り、この作品は自分の経験をベースにしたと言われており、かつ、ラディゲのデビュー作です。

 

自分の経験を小説化すること自体はままあることとして、年上の既婚女性との不倫に溺れながらも心の推移をどこか冷静に描き切った筆致は、とても10代の文章とは思えない、成熟した厚みを感じさせます。

正直なところ、題材と舞台設定は平凡なのですが、「僕」の口から流れるように語られる心の推移に引き込まれます。

 

一方で、「僕」のマルトへ向けられる愛は凶暴かつ自分勝手で、やはり、このような愛の描き方は10代らしいとも思えます。

この作品を10代で読んでいたら、また違った感想を持っていたかも知れません。

 

現代でも変わらない男女の機微

 

「僕」はわずか15歳ですが、相手の女に妊娠を告げられ、動揺するも喜んでいるふりをする、と、ここだけ拾うと現代に通じるものがあります。また、辛そうなマルトを無理矢理連れまわしたり、自分の子であることを否定したり、自分の子として心構えが出来たと思ったら、マルトの死により悲しみつつも解放された気分になったり、さらには、周りに知られても良いと自暴自棄に振る舞いながらも、実際に知られると取り繕ったり隠そうとする、という、矛盾に満ち溢れた「僕」の対応は、男性が女性に対して示す残酷さの最たるものです。

 

一方で、夫への嫉妬から逃れられなかったり、マルトが嘘をついたことで嫉妬に苦しんだり、一日中マルトのことを考えている様は、純粋にマルトに恋している人のそれです。

 

そんな状況下で、肉体的に辛くても幸せそうなマルトは、まさに恋に溺れ切った女です。

 

男の女に対する残酷さと純粋さを描き切り、また、その中でも幸せを感じる女を描き切った、まさしく「恋愛小説」と言えるでしょう。

 

『肉体の悪魔』というタイトル

 

この小説について何の予備知識もない頃、私はこの作品はもっとエロティックな作品なのかと思っていました。

 

後述する光文社版の訳者あとがきによると、原題『Le Diable au corps』の直訳は「体に悪魔がいる」という意味で、転じて「冷酷非情に悪事を行える」「激しい恋のとりこになっている」という比喩的な状況を指す言葉だそうです。

それを『肉体の悪魔』という邦題にし、それが有名になってしまったために、私の感じたような違和感のあるタイトルになってしまったのだと思われます。

 

なお、グレタ・ガルボが出演した1926年の映画で『肉体と悪魔』というものがありますが、これはドイツの作家ヘルマン・ズーダーマンの小説『消えぬ過去』を映画化したもので、全く違う作品です。

私は昔、同一作品だと信じていました。同じような人がいるかも知れないので、注記として載せておきます。

 

日本語翻訳版おススメ

 

『肉体の悪魔』は、現在入手可能なものとして、光文社(中条省平訳)、新潮文庫(新庄嘉章訳)、東京創元社(江口清訳)から翻訳が出ています。

 

自分が購入したときは有料だったと思うのですが、今見たら、光文社版がKindle Unlimitedの読み放題対象になっていたので、こちらをおススメします。

 

他の版と比べていないので優劣はつけられませんが、「僕」の心の推移が流れるように表現されており、とても読みやすい翻訳です。翻訳者の作者に対する敬意を感じられる良訳だと思います。

 

 

『肉体の悪魔』まとめ

 

『肉体の悪魔』いかがでしたでしょうか。

 

Kindleによると平均読書時間2時間44分と、それほどの長編ではありませんが、クドクド語られる「僕」の心理状態の変化が面白く、ぐいぐい読めます

 

それほど長い作品ではありませんので、一読をおススメします。

 

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