金庸『神雕剣侠』主人公楊過は金庸作品の中でも一番イイ男だと思う

前回の『射雕英雄伝』からだいぶ時間が経ってしまいました。

 

今日は『神雕剣侠』です。私の中では『笑傲江湖』と一二を争うくらい大好きな作品でもあります。

大好きなんですが、楊過と小龍女が何度も辛い目にあって、何度も離れ離れになるので、エピソードによっては読むのが嫌になっちゃうんですよねー。

最後まで読み切るとやっぱり大好きな作品なんですが。

 

というわけで、再読にエラく時間がかかってしまいました。

 

この作品、完全ネタバレ無しで書くのが難しいので、途中まではネタバレ無し、予告以降はネタバレありでいきます。

まだ読んでない方、ご注意ください!

 

『神雕剣侠』あらすじ おいしいとこどり

 

金庸のストーリーラインは分かり易いのでまとめ辛いことはないのですが、それよりも初読の時の驚きとワクワク感・ハラハラ感を味わっていただきたいので、ここではネタバレ無しでいきます。

 

『神雕剣侠』は『射雕英雄伝』の続編であるため、登場人物はかなり被っており、一部設定も引き継がれているため、『射雕英雄伝』の後に読んだ方が話がつながって面白いです。

 

物語は、『射雕英雄伝』から数年後、売国奴として横死した楊康(ようこう)の忘れ形見 楊過(ようか)が、母親にも死なれ、一人浮浪児として生きていたところを、かつての父の義兄弟 郭靖(かくせい)に拾われたところから始まります。

 

郭靖には気にかけてもらったものの、その妻 黄蓉(こうよう)に嫌われた楊過は、その後、全真教に預けられるも、そこでも問題を起こし、古墓派に身を寄せます。

 

古墓派の宗主は俗世から隔絶されて育った絶世の美女 小龍女(しょうりゅうじょ)。彼女を師匠として、また、たった一人の家族として育つ楊過だったが、いつしかその想いは愛へと変わる、しかし、それは当時の武林では禁忌ともされた想いだった―――――――――。

 

この作品では前作『射雕英雄伝』から引き続き、宋と元の戦いにも触れられますが、歴史小説の色合いはさらに薄まり、楊過と小龍女のラブストーリーがメインとなります。

 

しかしながら、相変わらず、ちりばめられた謎や登場人物の背景を回収していく展開は上手く、文庫本にして全5冊と言うボリュームは前作と同じながら、1冊辺りの分量が5割増し程度には増えているので、こちらの方が読み応えもあります。

 

  • 物語開始早々、墓荒らしをする謎の怪人は誰か。なんのために墓荒らしをしたのか
  • 嘉興陸家荘はなぜ李莫愁(り ばくしゅう)に襲われることになったのか
  • 李莫愁に連れ去られた陸無双(りく むそう)はその後どうなったのか
  • 李莫愁に殺されそうになった程英(てい えい)を助けたのは誰か
  • 全真教を訪れた早々、郭靖はなぜ襲われることになったのか
  • 女しか入門を許されない古墓派に、楊過はなぜ入門を許されたのか
  • 二度と出られない古墓から、楊過と小龍女はどうやって脱出するのか
  • 誤解から仲たがいして離れ離れになった楊過と小龍女はどうやって再会するのか
  • 楊過と陸無双はいかにして李莫愁から逃れるのか
  • 欧陽鋒と洪七公の戦いはどのような決着を見るのか
  • 小龍女はなぜ公孫止との結婚を了承したのか
  • 情花の毒にあたった楊過と小龍女はどうやって助かるのか
  • 絶情谷の地底にいた老女は誰なのか
  • 楊過と小龍女の子供と誤解され、生まれたその日に李莫愁にさらわれた郭襄の運命は
  • 郭芙をめぐる武兄弟の争いはどう決着を見るのか
  • 孤独な剣客 独孤求敗 の剣術を楊過はどこで目にするのか
  • 師弟による結婚がタブーとされた時代、楊過と小龍女はどうするのか
  • モンゴル兵に囲まれた全真教はどうなるのか
  • 野望を秘める趙志敬と彼に弱みを握られた尹志平はどうなるのか
  • 欧陽鋒の経脈逆行の術で治るはずだった小龍女の毒が不治になったのはなぜか
  • 南海神尼とは何者なのか
  • 楊過は父の死の真実を誰からどのような形で知ることになるのか
  • 楊過と小龍女は再会できるのか
  • 最後に失われた「九陽真経」はどこに消えたのか

 

なお、最後の「九陽真経」を巡るエピソードは、完全にこの後の「射鵰三部作」の最終章『倚天屠龍記』に向けた前フリです。

 

『神雕剣侠』つっこみどころ

 

ここから先、言いたいことはネタバレ無しには言えないので、ネタバレあります。まだ読んでなくて内容を知りたくない方、ご注意ください。

 

郭靖・黄蓉夫婦の変わりっぷり

 

前作で、金庸小説の中でもベストカップルの候補に躍り出た郭靖・黄蓉ですが、結婚後はだいぶ趣きが違います。

 

平たく言うと、郭靖は結婚して男を上げたのに対し、黄蓉はただのやっかいな嫁になってしまっています。

互いに対する一途な想いというところでは全く変化はありませんが、郭靖が義兄弟の忘れ形見 楊過を育てようと心を砕くのに対し、黄蓉は楊康の悪印象を楊過にそのまま重ね、いやがらせをします。

 

まぁ、黄蓉は『射雕英雄伝』のころから容赦のないところはありましたが、前作の間はそれが郭靖への一途な想いから出てやったことで、可愛らしいと言えないものでもなかったのに対し、本作は主人公 楊過に感情移入している読者からすると、楊過が歪んでいった原因にもなっているため、ただの嫌なおばさん以上のものではありません。

 

後半で自分のやったことを反省し、郭靖の人を見る目を褒めたたえ、楊過の味方をするようになるのがせめてもの救いでしょうか。

とは言っても、それから後も楊過を信じようとして何度も信じられなくなるので、全然ダメなんですが。本当に賢い設定なのか、この人?

 

そんな感じで、『射雕英雄伝』のときは良かったのですが、とにかく『神雕剣侠』の悪印象が強く、というか『神雕剣侠』で私は黄蓉が嫌いになったのですが、そして、個人的に『神雕剣侠』の方が作品としても好きだというのもあって、郭靖・黄蓉は私の中ではベストカップルではありません。やはり楊過・小龍女がベストカップルです。

 

まぁ、結婚すると男も女も変わるということでしょう。

最も、楊過・小龍女は結婚してからも全然変わらないようなイメージがあります。その点もまた私にとってはプラスポイントです。

 

耶律斉の趣味が悪すぎる

 

この作品のラスボスが郭芙(かくふ)、裏ボスが黄蓉であることは、読んだ方には異論はないのではないでしょうか。

 

私が金庸が好きな理由の一つは、悪人が最後には因果応報でちゃんと罰せられるという水戸黄門的安心感も挙げられますが、この作品中で郭芙が罰せられないのが個人的には一番不満です。怒り狂った郭靖に腕ぶった切られてしまえとは言いませんが、どこかでのたれ死んでしまえくらいには思います。

 

そんな郭芙と結婚するのが、ここに挙げた耶律斉。どこをどう読んでも、郭芙には容姿以外の取り柄が何もないため、一見好青年風の耶律斉がなぜ郭芙に惹かれたのかは、個人的にはこの作品最大の謎です。

 

しかも、耶律斉の前でも郭芙の傍若無人さは変わらず、郭靖を前にした黄蓉のような可愛らしさもないため、耶律斉の趣味がよほどおかしいのか、「しょせん顔か。。。」のどちらかでしょう。

それ以外の部分を読むと、耶律斉は家柄も良く、武芸に優れ、なかなかの人格者に読めるのですが、この一点のためだけに、評価はマイナスです。

 

なお、郭芙は、最後の最後で、楊過に対して自分のやってたことがただの「好きな子いじめ」だったことに気づき、ちょっとは反省します。

それで腕ぶった切られてちゃたまんねーぜ、と思いますが、悪役が最後改心するところはジャンプ漫画っぽくて王道です。

 

公孫綠萼(こうそん りょくがく)が不憫すぎる

 

この作品の中の特に女性陣は、陸無双は幼くして李莫愁にさらわれたり、程英も李莫愁に殺されかけたり、洪凌波も李莫愁に使い捨てにされたり、そんな李莫愁も恋人に捨てられた恨みから最期一人になったり、と女性陣が不憫です。

まぁ、ここに挙げた人たちを見てると元凶は全部李莫愁じゃないかって気もしますが、ヒロインの小龍女にしても、元は捨て子で孫ばあや以外とずっと話したことがなかったり、レイプされたり、何度も死にかけたりとひどい目にあっています。

 

そんな不憫な女性陣の中でも私が一番、本当にかわいそうだと思うのが公孫綠萼です。

 

父親の公孫止には楊過と一緒に殺されかけ、気にかけてはくれるけれども全然人の話を聞かず、公孫止への恨みが勝って自分の気持ちは考えてくれない母 裘千尺(きゅう せんじゃく)に翻弄され、そんな父と母の間で板挟みになり、最終的には父親に剣で刺し殺され、死してなお死体を弾除けにされるというひどい扱いを父から受ける、という不遇っぷりは、ここに書いてるだけで涙が出てきます。

 

しかも、楊過に恋し、妾でも良いというくらい思い詰めますが、小龍女以外眼中にない楊過には相手にされず、それでも全然人の話を聞かない母から毒消しを得て、楊過と小龍女の幸せを叶えるために自分の身を犠牲にするという自己犠牲精神の持ち主です。

 

本人も、自分の人生には何の喜びもなかったと言っているところがありますが、勧善懲悪の傾向が強い金庸作品で、ここまで何も報われない善人も珍しい気がします。

 

あまりに善良な性格にしすぎたため、せめて、両親がお互いに殺しあって、最後相討ちになるのを見ないですむように、との金庸なりの配慮なのかも知れませんが。

 

にしても不憫です。

 

楊過の忍耐力がすごい

 

楊過の忍耐力というと、小龍女との再会を16年間待っていたという点が挙げられますが、これもすごい忍耐力ですが、これについては、再会については考えないよう死ぬほど働く、という現代社会でも取られる方法で対応しているため、それほど珍しいことではないかも知れません。

 

16年間待ち続けたという意味では小龍女も同じであり、しかも、彼女の場合は一人でずっと待っていたので、この点の忍耐力は小龍女の方がすごいでしょう。

最も、小龍女は引きこもりの類義語古墓派で育ったため、人との関わりにそれほど重きをおいていないので可能だったとも言えます。

 

ここで問題にしたい楊過の忍耐力は、よく郭芙や黄蓉に復讐しなかったなーの一言に尽きます。

 

まぁ、いくらひどい仕打ちを受けていても、主人公が復讐してしまうと、それは闇落ち以外の何物でもないので、金庸作品としては成り立たなくなってしまうのですが、子供の頃はいじめられ、腕をぶった切られた上に、愛する妻を瀕死に追いやり、16年間離れ離れになる原因を作った、というのは、復讐するに十分な理由だと思うのですが、いかがでしょうか。

 

それを「兄妹みたいなもんだ。これから嫌ったり恨んだりしなければ十分」という一言で全てを水に流せてしまう楊過は、郭靖よりもさらに度量の広い男です。というか、広すぎると思います。

しかも郭靖は度量が広いというより鈍いのが結果として度量の広さにつながっているタイプですが、楊過は頭が切れ、色々考えた結果としてこう言っているので、やはり郭靖より上でしょう。

これを聞いて、黄蓉と郭芙には猛省して頂きたいですね。自ら腕一本差し出すくらいあっても良いと思います。

 

なお、後半になると黄蓉は、自分たちがやらかしたことを考えて、楊過が自分たちを恨んでいるに違いない、という発想をするようになります。

「いや、恨んでも当然だと思います」と私としては言いたいのですが、黄蓉(と郭芙)が色々やらかしてなければ楊過をここまで恐れることはなかったと思うので、人の印象は自分の鏡だというのは、まさにその通りというお手本です。

 

『神雕剣侠』まとめ

 

『神鵰剣俠』いかがでしたでしょうか。

 

武侠小説としても、ラブストーリーとしてもよく出来ていて、見どころ溢れる作品です。

途中、様々な困難がありますが、金庸らしく、最後は大団円を迎えて終わりとなりました。

最初にも書いた通り、途中のエピソードが色々辛すぎて読むのに時間がかかってしまったのですが。。。

 

この作品は「射鵰三部作」と呼ばれる南宋・元時代を舞台にした連作で、『射雕英雄伝』の続編にあたり、この後は『倚天屠龍記』へと続きます。

キャラクターが被り、展開が引き継がれている『射雕英雄伝』からは必読で、そして、はっきりとは書かれていないもののうれしい読者サービスがある『倚天屠龍記』へも是非通しで読んでみてください。

 

 

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コメント

  1. […] 中国の友達から、全員男が演じる『神鵰剣俠』『倚天屠龍記』のミニドラマを教えてもらいました。 […]

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