昨日の『碧血剣』に続き、今日は『雪山飛狐』です。
これは、金庸の中でも特に残念、一番と言ってもいいくらいツッコミどころ満載の作品です。
早速見ていきましょう。
『雪山飛狐』あらすじ 美味しいとこ取り
金庸のストーリーラインは分かり易いのでまとめ辛いことはないのですが、それよりも初読の時の驚きとワクワク感・ハラハラ感を味わっていただきたいので、ここではネタバレ無しでいきます。
時は清朝第6代皇帝乾隆帝の時代。明朝を滅ぼし、その後清朝に滅ぼされた李自成に関係する胡・苗・范・田性の四家系について過去と因縁が語られ、語り終えたとき、胡家の末裔が姿を現す、という話です。
登場人物が少しずつ語ることによって謎が明らかになる、ミステリ的手法も取られています。
この作品は文庫本一巻分に以下に列挙したような様々な謎が詰め込まれ、それが少しずつ解きほぐされていくのが面白いです。
- 李自成の護衛で最も信頼されていた胡性の男は、なぜ李自成の死とほぼ同時に清朝に降り、清朝に仕えていたのか
- 李自成の死に関する真相はいかなるものだったのか。苗・范・田性は李自成の死にまつわる真相を聞いてなぜ自害したのか
- 「雪山飛狐」の父、胡一刀を殺したのは誰なのか
- 胡一刀の最期について、苗若蘭と宝樹の話が食い違うのはなぜか
- 胡一刀が殺され、その妻が後を追った後、生まれたばかりの胡斐はいかにその場を逃れたのか
- 胡一刀が殺されたときには、かじった程度の武芸しかできなかった宝樹が、物語時点では圧倒的に強くなっていたのはなぜか
- 苗・田家の先代はどこに消えたのか
- 田帰農はなぜ死んだのか
- 田家の持つ宝刀と、それが収められていた箱のありかは。この二つが揃うとどうなるのか
- 金面仏 苗大俠はなぜ一人娘に武芸を教えなかったのか
一方、物語の展開としては、盛り上がるところで終わってしまうので、特筆すべき個所はありません。
『雪山飛狐』ツッコミどころ
何はおいても終わり方
平たく言うと、「え!?!?」と思わず声が出てしまう終わり方をしています。さらに細かく言うと、まるで打ち切り漫画のような、投げっぱなしジャーマンをかまして終わっていきます。
いや~、これはないでしょう~。
いくら私が金庸好きでもこれはない。
これについては、当時から様々な反響があったようで、金庸自身も友人や読者からの問い合わせに答える形で、7~8通りの結末を考えてみたものの、結末は各々の読者の想像に任せるということで、結局発表されずに終わっています(と訳者あとがきに書いてあります)。
そして、金庸が先月亡くなられてしまったので、もう二度と続きも改訂版も出ることはないわけです。
主人公と、決して悪玉ではない敵役との一騎打ちで、自分が助かるためには相手を犠牲にするしかない、というようなところで終わり、さあ、この二人はどうなるのでしょう!?というところで終わるわけですが、他にも欲に目のくらんだ他の登場人物たちが財宝に気を取られている間に閉じ込められたままだったり、とやはり非常に中途半端なところで終わっています。
訳者あとがきは金庸を立てて、この作品はこれで完璧だというようなことが書いてありますが、「んなことあるかい!」と叫びたい。
この状況から思っていた終わり方に持っていくのが難しくなったからあきらめたのか、めんどくさくなって止めたかのどちらかだと、個人的には思っています。
最も、金庸先生は、ジャンプ漫画以上に絶体絶命の状況から主人公と仲間を救い出すストーリー展開が得意なので、前者はあまりないんじゃないかと個人的には思っていたりします。
やっぱめんどくさくなったんだろうか。
もう一つあるかなと思っているのが、この次の作品『射雕英雄伝』を思いついて、早く書きたくなって、連載中の案件を巻いていったか。
実際、金庸の評価は『射雕英雄伝』で確立されたようなところがあるので、これはあながち邪推でもない気がします。
まぁ、だとすると、『雪山飛狐』を巻いたことによって、あの名作『射雕英雄伝』が生まれたのだとすると、「じゃぁ、仕方ないかなー」という気持ちになったりします笑。
キャラクター造形がひどい
『雪山飛狐』を読み始めると、まず最初にほとんどの人が、曹雲奇が主人公かなと思うと思います。が、この似非主人公、武芸はそれほどでもないし、そのくせ掌門になって威張っているし、すぐカッとなって思慮が浅い、と金庸の主人公にしてはまるで良いところがないため、「あ、これはフェイクだな」と、金庸ファンはすぐに気がつくことができます。
実際の主人公は、物語が半分以上進まないと出てこない胡斐なのですが、この人については容姿がゴツイという特徴以外はほとんど掘り下げられずに物語が終了してしまいました。
これが打ち切りでなくてなんなのか、と私は言いたい。
それはともかく、他の登場人物もクズが多く、ちょっと金庸にしては登場人物の魅力に欠け過ぎるのではないかと思います。
ただ、物語が進むに連れて、無敵に思えた宝樹が控えめに言って人間のクズであることが発覚するとか、ヒロインかと思った田青文が悲劇のヒロイン気取りのしょうもない女であることが発覚するとか、謎解きと並行して登場人物の本性が現れてくる様は、『笑傲江湖』の偽君子の展開に通じるものがあり、キャラクターの魅力はないものの、話の展開としては非常に面白くなっています。
『雪山飛狐』まとめ
『雪山飛狐』いかがでしたでしょうか。
途中までの謎解き展開が非常に面白いので、ついつい読んでしまうのですが、終わり方の問題もあり、正直、金庸の中ではおススメしません。
結末まで書ききってくれたら、どんなに面白い作品になっていただろうと今でも悔やまれますが、まぁ、もうどうしようもないので、あとは想像するしかありません。
金庸も、後は読者が自分で想像してくださいとのことだったので、まさに金庸の思い通りということでしょうか。
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コメント
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